「経済性ゼロ」でも、海をきれいにしたい。SUSTAINABLE JAPANが描く、共感で広がる環境ビジネス

Kamiya

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こんにちは、&Fans編集部の松橋です。

&Fansでは、熱狂を生む企業や個人のストーリー、そしてそこに紐づくマーケティングの視点をお届けしています。

今回お話を伺ったのは、「未来の子どもたちに、きれいな海を残したい」という想いから事業を立ち上げた、株式会社SUSTAINABLE JAPANの代表取締役・東濵孝明さん。

東濵さんが手がけるのは、海洋ゴミを効率よく回収するための専用機器の導入や、自社開発による清掃マシンの開発。そして、集めたゴミを再資源化し、新たな価値を生み出すプロダクトづくりです。

経済合理性が成り立たないとも言われる環境領域において、「それでも誰かがやらなければ」と動き続ける東濵さん。多くの共感を集め、企業や自治体との協業も広がるなかで、持続可能な事業のあり方を探ります。

目次

海辺の記憶が、原点に

── 東濵さんがこの活動を始められた原点について、改めて教えていただけますか?

私の母の実家が熊本県の港町にありまして、私も幼い頃はよくその漁港の近くで祖父母と過ごしていました。昔は本当にきれいな海で、その記憶がずっと心に残っていたんです。

── なるほど。その記憶が後の原動力に?

はい。30歳の頃に久しぶりに帰省した際、ふと漁港を見に行ったんです。すると、海はゴミだらけ。信じられないくらい汚れていました。正直、ショックで……「昔はあんなにきれいだったのに」と心から思いました。

── そこで何かしようと?

最初は個人的にビーチクリーンを始めました。家族や子どもたちと一緒に、地道に拾っていく。でも一時的にはきれいになっても、すぐ元通りなんです。そこで「もっと継続的にきれいにする方法はないのか」と考え始めました。

── それが「Seabin」との出会いにつながるわけですね。

はい。ネットで調べる中で、オーストラリアの『Seabin』という海洋ゴミ回収機を知りました。でも個人には販売してくれない。法人であれば、という条件だったので、「じゃあ会社を作ろう」と。思い立って行動したのが、SUSTAINABLE JAPANの始まりです。

Seabin(シービン)は、海面に浮かべて使うゴミ回収装置。1台で年間最大1.5トンの海洋ゴミを回収可能に!

結婚を機にUターン、そして起業へ

── 地元に戻ってから、すぐに起業されたのでしょうか?

いえ、まったくそんなことはなくて。もともと東京で仕事をしていて、20代のほとんどをそちらで過ごしました。結婚を機に熊本に戻ってきて、最初は普通に就職していました。

── では起業のきっかけは何だったんでしょう?

帰省して漁港を見たときのショックですね。海の汚れを見て、「子どもたちの世代にこのままの海を残すわけにはいかない」と思ったんです。子どもは3人いるので、特にその想いは強かったです。

── それにしても、会社を作るというのはハードルが高いように感じます。

そう思われがちですが、実際にやってみると意外とシンプルでした。必要なのは「思い」と、少しの「資金」と「手続き」だけ。法人登記って、想像よりずっと簡単なんです。

設立間もない時期のSEABIN実証実験

── 熱意が行動に直結したんですね。

その通りです。「Seabinを導入するために法人にする」という理由で起業する人って、たぶん世界でもそう多くないんじゃないかと(笑)。でも、必要だったから迷いませんでした。

清掃活動から“経済性ゼロ”の挑戦へ

── 「経済性ゼロのビジネスモデル」というコンセプトが印象的です。

最初は「これは売れる」と思っていたんです。環境に貢献できるし、社会的意義もある。でも実際に営業に行ってみると、なかなか売れない。「なぜ?」と考えたときに気づいたのが、買い手にとって金銭的メリットがないという点でした。

── 投資対効果が見えにくいということですね。

そうです。例えば工場の機械だったら、生産性が上がるとか利益が増えるとか、導入の目的が明確ですよね。でも『Seabin』や『SEETHLIVER』は、ゴミを拾うだけ。それがいかに大切でも、数字での見返りはほぼゼロ。

「未来の海を1%でも綺麗にしたい」そんな想いから生まれたのが、用排水路専用ゴミ回収機SEETHLIVER。街から海へ流れ出す前に、生活ゴミや微細な被覆肥料の膜を回収が可能。SUSTAINABLE JAPANが独自に開発を行った。

── それでもあえて挑戦する理由とは?

単純に「必要だから」です。社会全体の利益になることって、個人や企業の利益とはまた別の次元にある。でもそれをビジネスとして続けるには、別の形で支えてもらう仕組みが必要だと感じています。

── 海外との違いも感じますか?

はい。欧米では環境ビジネスがある程度成立しています。でも日本はまだ難しい。だからこそ、「経済性ゼロでも続けられる」モデルを構築して、見せていく必要があると思っています。

現場の声と、進化するプロダクト

── 御社の製品には「Seabin」ほか、さまざまな事業を展開されていますが、事業展開にはさまざまな壁があったのではないでしょうか。

そうですね、特に最初に「Seabin」を導入したときは大変でした。誰もその存在を知らなくて、「何それ?」という感じでした。

── 導入のハードルも高かったのでは?

そうですね。設置には水深1.1メートル以上が必要で、電源も必要。しかも海辺や桟橋など、設置場所も限られる。これは普及しづらいと痛感しました。

軸はブレずにさまざまな事業を展開するSUSTAINABLE JAPAN

── それが「SEETHLIVER」の開発につながる?

はい。用水路での使用を求める声があったんですが、「Seabin」では無理だった。じゃあ自分たちで作ろうと。「電源不要」「設置場所を選ばない」「太陽光で動く」という仕様を目指して開発しました。

── 開発はスムーズに進んだのでしょうか?

全然です(笑)。初期はホームセンターで材料を買ってきて、Amazonで買った大型プールでテストして……開発に2年半かかりました。でもその分、完成したときの喜びは大きかったですね。

ゴミを「価値」に変える挑戦

── 回収したプラスチックを活用したプロダクト開発も進めているそうですね。

はい。長崎県の対馬は、日本でも有数の海洋ゴミの漂着地です。そこで回収されたゴミを使って、今、サーフィンのフィンや紙留クリップなどを製造中です。

── それがブランド化にもつながっていくと。

そうです。単に「エコな商品」ではなく、「海から生まれ、また海で使われる」という文脈がある。プロサーファーの方ともコラボしていて、波に乗る姿そのものがメッセージになるような製品を作っています。ブランド化し販売していく事で多くの方に海洋ゴミ問題を知るきっかけを与え、問題に関心がある事、問題解決に対し何か行動している人は「カッコイイ」という流れを作りたいです。ブランドがローンチしたらお知らせしますね。

── プロダクト以外の波及効果もありそうですね。

実際、製品を通じて多くの人と対話が生まれています。フィンやTシャツを購入すると紙留クリップを寄付することが選べる仕組みにして、小中学校に教育資材として届ける活動も始めました。商品を購入してくれるお客様が選択する事で海洋ゴミ問題や教育に参加しているという意識を持っていただけたら嬉しいですね。

講演会にてSEETHLIVER(プロトタイプ)の実演

── 社会との接点が増えることも大事ですね。

そうなんです。ただモノを作るだけではなく、それが人と人をつなぎ、社会との関係性を深める役割を果たしてくれたらと思っています。

「ファン」が生まれる理由

── 東濵さんのお話を聞いていて、すごく自然と“応援したくなる”感覚が湧いてくるんですが、企業や個人からの協力も多いですよね。その理由、ご自身ではどう捉えていますか?

そうですね……あんまり「ファンが増えた」とか意識したことはなくて。ただ、「海を綺麗にしたい」っていう気持ちをまっすぐに伝え続けてきただけなんですよ。

── まっすぐな想いが共感を呼んでいると。

そうかもしれません。私はもともと人前で話すのも得意じゃなかったですし、ビジネスの知識もゼロからのスタートでした。でも、それでも誰かがやらなきゃいけないと信じてやってきたので、その姿勢を見て「一緒にやりたい」と思ってくれる人が出てきたんだと思います。

── 一緒に活動する仲間が増えることで、プロジェクトも加速していく感覚はありますか?

ものすごくありますね。自分だけ、SUSTAINABLE JAPANだけじゃ限界がある。でも、応援してくれる人が一人、また一人と増えることで、広がる世界がある。今の活動の多くは、そうした「共感の連鎖」で成り立っていると思います。

── “ファンづくり”を目的にしていないのに、結果としてファンがついているというのが、まさに理想的な形ですよね。

嬉しいですね(笑)。ありがたいです。応援してくれる人たちに応えたい気持ちも、活動の原動力になっています。

SUSTAINABLE JAPANが考える、環境問題のこれから

── ここまで様々な取り組みをされてきたと思いますが、今後さらに挑戦したいことはありますか?

はい、実は今、回収したプラスチックから作った製品を全国規模で展開し、資源として流通させる仕組みをつくろうとしています。地域で拾ったゴミが、地域で価値になる。そんな循環の社会を目指しています。

── 回収から製造、販売までを一貫してつなぐ、ということですね。

そうです。それに加えて、例えばポイント制度を導入して、ビーチクリーンに参加したらポイントが貯まり、そのポイントで再生素材の商品が買える。そんな仕組みもつくっていきたいです。

── 社会的活動と消費行動がつながっていく未来ですね。

まさにそれです。環境問題って、自分に直接関係ないと思われがちですけど、日々の買い物や行動を通じて「自分ごと」になる。そうすれば、もっと多くの人が関われるようになると思っています。

── 海洋プラスチックを燃料化するプロジェクトにも取り組んでいらっしゃると伺いました。

はい。まだ構想段階ですが再生油として活用することで、例えばトラクターの燃料にしたり、ビニールハウスのボイラーに使ったりできる。廃棄物から新しいエネルギーを生み出す、という次の事業も考えています。

── 持続可能性にとどまらず、未来のインフラにもつながるプロジェクトですね。

そうなれば嬉しいです。最終的には、全国の仲間たちと連携して、回収→製造→活用→教育までを1つの循環として成立させたい。その仕組み自体が、ひとつの“社会資本”になると信じています。

「綺麗にしたいと思ったから」「子どもたちのためにできることを」
東濵さんの口から語られる言葉は、どれも驚くほどシンプルで、まっすぐでした。
どんなに困難な課題にも、立ち向かう人がいて、その後ろには“想い”に共感した人が続いていく。
その構図こそが、&Fansで伝えていきたい「ファンと共に育つ」物語そのものでした。

このインタビューを通じて、株式会社SUSTAINABLE JAPANの活動、そして東濵さんの想いに触れるきっかけが、誰かの行動につながっていったら。そんな願いを込めて、この記事を終えたいと思います。

取材:松橋晋乃輔

執筆・編集:神谷周作

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