“新しい売り場”は、コンビニ!?クリエイターとファンをつなぐ一歩先の販売体験

Kosada

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「好きな作品を、もっと気軽に“手に取れる”世界があったら」

そんな願いに、本気で向き合う企業があります。

こんにちは、&Fans編集部のこさだです。

&Fansでは、熱狂を生むさまざまな企業や個人のストーリー、それらの考えに紐づくマーケティング概念などを紹介しています。

今回お話を伺ったのは「ピクシブ株式会社」。

イラスト、マンガ、小説作品の投稿プラットフォーム「pixiv」を中心に、創作物の総合マーケットプレイス「BOOTH」、ファンコミュニティ「pixivFANBOX」など創作活動を支援する様々なサービスを展開しています。

2024年には、「pixivFANBOX」に登録されたクリエイターの作品を、コンビニのマルチコピー機にて購入できるサービス「FANBOXプリント」をリリースし、話題を集めました。

今回は、「FANBOXプリント」が生まれるまでのプロセスや込められた想い、そしてこの先の展望について、担当の濱吉さんにじっくり伺いました!

目次

クリエイターとファンをもっと近くに。FANBOXプリント誕生のウラ側

ーまず、ピクシブ株式会社について教えてください。

「Accelerate creativity. 創作活動を、もっと楽しくする。」をミッションに掲げ、世界中のクリエイターが創作をもっと楽しめるようなプロダクトを数多く展開している会社です。

ーその中のひとつに「FANBOXプリント」がありますよね。どんなサービスなのでしょうか?

「全国のコンビニがあなたのお店に」をコンセプトに、ファミリーマート・ローソン・ミニストップなど全国約3万店舗に設置されたマルチコピー機から、クリエイターが作品をプリント販売できるサービスです。クリエイターの創作活動を応援するファンコミュニティ「pixivFANBOX」から派生して2024年に生まれたばかりの新しいプロダクトです。コンビニのマルチコピー機に作品のプリント番号を入力し、料金を支払うだけで、ファンはその場でプリント商品を手に取ることができます。また、クリエイターのコンテンツをプリントすると、印刷代金の30%がクリエイターに還元され、創作活動の支援につながる点が大きな特徴です。

ーコンビニのマルチコピー機を使うという発想が新鮮です。このプロダクトはどのようにして生まれたのですか?

きっかけはシャープさんからご相談をいただいたことでした。当時、マルチコピー機ではキャラクターの公式プリント商品を販売する「コンテンツプリント」がありましたが、個人クリエイターが自由なタイミングで収益化できる仕組みは存在していませんでした。それまでは、クリエイターがネットプリントの番号をSNSでシェアして、ファンがプリントするのが主流。つまり、どれだけプリントされても、クリエイターに収益が入らなかったんです。

そこで「ピクシブが間に入ることで、クリエイターに新しい収益源をつくりたい」という想いのもと、シャープさんと議論を重ねてサービスを設計し、テスト販売を3年、サービス開発を約1年の歳月をかけてリリースに至りました。

ー話があってから4年!かなり時間をかけて設計・開発されたんですね。やはり課題も多かったのでしょうか?

そうですね。特にシステムの開発には苦労しました。最初はすべて自社でつくる予定だったのですが、マルチコピー機と連携する仕組みを構築するのが本当に大変で……。ルールや仕様の壁にぶつかって、プロジェクトが停滞した時期もありました。

その後、改めて体制を見直し、開発チームを再編。「やりたい」と手を挙げてくれたメンバーと共に、外部パートナーとも連携しながら、再スタートを切りました。それが2023年10月です。そこから約1年かけて調整を重ね、2024年12月にようやく正式リリースにこぎつけました。

―サービス開始に向けて、企画を進める中で特にこだわっていた部分や重視していた点も伺いたいです。

販売クリエイター登録の段階で、しっかりと審査のステップを設けることで安心感のあるサービス運営を目指しました。

「FANBOXプリント」は、作品を販売するサービスでもあるので、利用するクリエイターはコンテンツ提供者登録およびコンテンツ審査の通過が必要となります。住所や氏名などの個人情報や活動実績を示すURLの提出なども必要になるため、最初は「ちょっと面倒だな」と感じる方も多いと思うのですが、安心して利用してもらうためには必要な仕組みだと考えています。

その一方で、登録が完了した後の“使いやすさ”にはかなりこだわりました。

たとえば、FANBOXプリントではコンテンツ審査が通ると告知用画像が自動生成できるようになっています。プリント番号の情報も含まれているので、そのままSNSに貼るだけでファンへの告知が完了し、クリエイターが告知用画像を自作する必要はありません。

「登録の手間は最初だけ。そのあとはスムーズに。」
クリエイターが創作そのものに集中できるよう、それ以外の負担を少しでも減らせれば、という点を意識して開発しました。

守るべきは、クリエイターファースト。だからこそ続く試行錯誤

ーリリースされてからの反響はいかがですか?

ありがたいことに、毎月およそ200名ほどのクリエイターに新規登録をいただいています。サービス開始から累計登録者数は約3,600人に達しました。(2025年12月時点)

在庫リスクがなく手軽にコンビニで作品を販売できる点を評価いただいていて、「毎月新作を出すのが楽しみ」と継続的に利用してくださる方もいます。プリントしたコンテンツをコレクションとして楽しむファンの方も増えていて、全体的にポジティブな反響を感じていますね。

ー運営する中で、課題や苦労している点はありますか?

課題はまだまだ多いです。今は販売価格が一律で、L版300円・2L版500円。クリエイターへの還元は売り上げの約30%なのですが、販売の平均単価が350円前後と、還元額が大きな数字になるケースは少なく、継続利用のモチベーションにつながりにくいのが現状です。そのため、今後は最低販売価格のみを設定し、それ以上の価格はクリエイター自身が自由に決められる仕組みの導入を検討しています。作品の価値を自分で設定できるようになれば、より多くの方が前向きに利用できると考えています。

ーまさに、試行錯誤しながらアップデートされているんですね。

そうですね。クリエイターの方々には定期的にアンケートを実施して、直接意見をいただくようにしています。直近で行ったアンケートで要望が多かったのが「シール紙への対応」でした。開発を進め、2025年12月18日にリリースすることができました。

―クリエイターにとって、「FANBOXプリント」はどんな存在でありたいと思いますか?

作品を生み出すことは、それだけで本当に大変なことだと思うんです。創り始めることも、完成させることも、発表することも全てにハードルがあります。グッズ化までの道のりは本当に遠く感じると思うのですが、だからこそ、FANBOXプリントを通して「グッズ化」という挑戦を少しでも身近に感じてもらえると良いなと思っています。FANBOXプリントは、在庫やリスクを抱えずに“自分の作品を誰かの手に届ける”ことができるので、クリエイターの夢や挑戦を応援する、身近な存在になれたら嬉しいです。

ー売上データも見えると、やる気にもつながりそうですね。

そうですね。たとえば「自分の作品にファンがいるのかな」と不安に思っている方でも、FANBOXプリントなら気軽に始められます。

「コンビニで買えるよ」と伝えやすいですし、在庫も持たなくていい。創作を続ける勇気を後押しできるサービスを目指していきたいです。

ー確かに、チャレンジしやすい仕組みです!

しかも販売枚数は管理ページで毎日更新されるので、自分の作品が“誰かに届いた”という実感がすぐに得られます。その小さな成功体験が、次の創作のモチベーションにつながっていく。そんな良い循環をつくっていけたらと思っています。

“創作の輪”を広げる人気IPとのコラボレーション

ー「FANBOXプリント」といえば、人気のIP作品とのコラボレーションが話題ですよね。

FANBOXプリントでは、通常はファンアートプリント商品の販売を禁止していますが、期間限定でファンアートの販売が可能になる「FANBOXプリントクリエイターフェス」を実施しています。初めての開催は2025年2月から4月にかけて行った『刀剣乱舞ONLINE』とのコラボレーションでした。その後、8月から10月には『東方Project』とのコラボを行いました。

ー人気作品とのコラボで、反響はいかがでしたか?

最初のコラボは、『刀剣乱舞ONLINE』10周年という大きな節目にあわせて実施しました。公式イラストレーターの方々をはじめ、多くのファンやクリエイターが参加してくださって、とても大きな盛り上がりとなりました。

ー『刀剣乱舞ONLINE』とのコラボはどのように実現したのでしょうか?

『刀剣乱舞ONLINE』とのコラボは、FANBOXプリントリリースから半年も経たないうちに実現したのですが、サービス開始前から版権元の方々に提案をしていました。

私自身ピクシブ入社以来、さまざまな企業やIPと一緒にイラストコンテストやグッズ企画を行ってきており長年のつながりを多く持っていたので、FANBOXプリント立ち上げ当初からIPコラボは意識していました。

元々、pixivには多くのファンアートが投稿されています。FANBOXプリントとファンアートを結びつけることで、ファンの楽しみをさらに広げたいという思いがありました。また、クリエイターフェスとも連動させたことで、pixiv全体にも良い相乗効果が生まれていると感じています。

ー今後もコラボイベントの開催を予定されていますか?

年に2〜3回のペースで実施していくために、現在もいくつかのIPと検討を進めているところです。特に、ファンアートが活発な作品とのコラボを重視していて、pixiv上の投稿数やクリエイターの熱量などを参考にしながら企画しています。これからも、ファンとクリエイターの“つながり”を広げる場をつくっていきたいですね。

多様なクリエイターが参加できる仕組みを目指して。FANBOXプリントが目指す先 

ー今後、「FANBOXプリント」ではどのような展開を考えていますか?

シール紙対応や価格設定の自由化といった機能改善を進めつつ、より幅広いジャンルの方々に使っていただきたいと思っています。現在は漫画家やイラストレーターの方を中心にご利用いただいていますが、FANBOXプリントで登録できるコンテンツはイラストに限らないため、ペットのインフルエンサーやアイドルの方にも活用してもらえるのではと思っています。

例えばイベントなどでチェキを1,000円で販売するケースもありますが、FANBOXプリントなら価格変更機能を使って自分に合った価格で販売することができます。そういった柔軟な仕組みを整えて、より多様なクリエイターが参加できる場にしていきたいですね。また、海外のコンビニに設置されているマルチコピー機との連携も進めています。

―すでに海外展開も視野に入っているのですね!

実はリリース前のテスト販売の段階では、台湾や韓国のマルチコピー機を提供している企業と連携し、日本と同じタイミングで同じコンテンツを販売する実験をしていました。そのときの販売データをもとに、今後は本格的な展開も検討しています。海外でも「創作を応援する仕組み」を広げていきたいです。

ー最後に「FANBOXプリント」をどんなサービスに育てていきたいと考えていますか?

クリエイターにとっては、新しい収益源を生み出す場所にしたいです。大きな金額でなくても、“ちょっとしたお小遣い”になる感覚で続けてもらえたら嬉しいですね。

そしてファンにとっては、もっと気軽に好きなクリエイターの作品を手に入れたり、応援の気持ちを形にできる場所にしたいと思っています。FANBOXプリントを“ギフト”のような感覚で使ってもらえるような仕組みを目指しています。デジタルでつながる関係を、リアルな“応援のかたち”として広げていけたら嬉しいですね。

取材を終えて

FANBOXプリントには、ピクシブが長年培ってきた「創作を楽しむ文化」への深い理解と、創作を“続ける”人を支えるための視点が息づいていました。

単なる便利なサービスではなく、誰かの「創作してみたい」「届けてみたい」という想いを後押しして、その作品を受け取るファンの喜びがまた次の創作へとつながっていく。そんな“循環”こそが、未来のクリエイティブを支えていくのではないでしょうか。

FANBOXプリントが生み出す新しいつながりは、これからの創作の在り方を大きく変えていきそうです。

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