アジア最大級のデザインEC「Pinkoi」が生み出す、ファンとともに育つ新しいショッピング体験

Matsui

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こんにちは、&Fansライターのマツイです。

&Fansでは、熱狂を生む企業や個人のストーリー、それらの考えに紐づくマーケティング概念などを紹介しています。

突然ですが、かわいい文房具や雑貨はお好きですか?
最近では機能性・デザイン性どちらもすばらしいものが増え、選ぶのがより楽しくなっています。
そんな中、唯一無二のアイテムとの出会いを通して、ファンを生む「Pinkoi(ピンコイ)」です。

Pinkoiはアジア最大級のグローバル通販サイト。台湾をはじめ、香港や中国、タイなどの海外デザイナーのグッズを直接購入できます。ユニークなグッズの数々は「かわいいもの好き」の心をつかみ、利用者数は全世界で680万人にものぼります。

今回はPinkoiの成長を支える価値観と取り組みについて、マーケティングご担当の杉田さんと尹さんにお話を伺いました。

目次

Pinkoiの誕生と成長:2011年に台湾で誕生、アジア最大級のデザインECへ

―本日はよろしくお願いいたします。Pinkoiのサイトはいつも素敵なアイテムにあふれていて、とても魅力的です。見ているだけでも楽しくて、あっという間に時間が過ぎてしまいます。

ありがとうございます。ユーザーの方からは「サイトを見ていると時間が溶けてしまう」なんて言われることが多く、私たちもうれしく思っています。

「Pinkoi」https://jp.pinkoi.com/

―Pinkoiは世界中の文房具や雑貨などを購入できるグローバル通販サイトとして、日本でも注目されています。サービスはいつからどの地域で始まったのでしょうか?

当社は2011年に「デザイナーと消費者をつなぐ」をテーマに台湾で誕生した企業です。アジアを中心に、各地域のデザイナーが手がけるプロダクトを直接購入できる通販サイト「Pinkoi」を展開しています。現在はアジア最大級の越境ECサイトに成長し、台湾をはじめ香港やタイ、韓国、日本などで展開中です。
日本版のサイトは2014年にオープンし、その翌年に日本支社が生まれました。

―日本での展開はおよそ10年ほどなんですね。

それもあってか、日本での認知度はまだ低く、知名度もまだまだだと感じています。ただ台湾での認知度と人気は高く、人口での単純計算だと10人に1人がPinkoi会員という計算になります。

―日本でも感度の高いユーザーにじわじわと広がっている印象です。ページのデザインはもちろん、出品ページのサムネイル画像まできれいでこだわりを感じます。

そう言っていただけるようにPinkoiのページは、デザイン面にかなり力を入れています。私たちは「アジア最大級のデザインのECサイト」とうたっているので、デザインや画像には気をつかっていて。

私たちの一番の目的は「デザイナーと消費者の皆さんをつなぐ」こと。そのためにはまず消費者の皆さんに、ポジティブな感情を抱いてもらう必要があります。それぞれのプロダクトのよさや美しさ、洗練された雰囲気がより伝わるように工夫しています。

―出品しているデザイナーは、出身も扱うアイテムもさまざま。文具や衣服、雑貨とたくさんカテゴリがあり、個人作家の方も多いと聞きます。

そうですね、企業だけでなく個人での出品も可能なため、個人作家さんは非常に多いです。販売実績等は関係なく、社内の審査をクリアすれば出品できる点も応募のハードルを下げているのかなと思います。

―作家さんからすると新しいマーケットの開拓にもつながりますし、励みにもなりそうですね。

個人で活動している日本のハンドメイド作家さんが、Pinkoiから海外で人気になった例もあります。作品が人気になって、国も年齢も関係なくたくさんの人に広まって……とファンが増えていけばうれしいですよね。

デザイナーと消費者の皆さんをつなぎつつ、その輪を広げていくには何をすべきか?その点はスタッフ一同、真剣に考えて取り組んでいるポイントでもあります。

台湾のアイテムをお得に購入できる「まるっとまる得便」。心奪われる雑貨の数々に注目!

“信頼できる存在”として選ばれるために。言葉の壁を越える挑戦

ー日本での展開にあたり、直面した課題や問題はありましたか?

一番の課題は「翻訳」でした。
台湾版サイトを日本語に訳して掲載していたのですが、不自然な文章だったり、わかりにくい表現だったり……当時は日本支社がなく、台湾本社のスタッフが対応していたのですが、だいぶ苦労したと聞いています。

ー現在の日本版サイトには、言葉の違和感はほぼないと思います。どのように改善したのでしょうか?

日本法人の設立が大きいですね。
日本人スタッフはもちろん、日本語が堪能な外国籍スタッフが関わることで、その点はだいぶ改善されたと思います。ただ、表現や文章はよりよいサイトを目指して日々ブラッシュアップしています。

ー表現や言葉に引っかかりがないと、出品アイテムの魅力もより伝わりそうです。

もちろんその点も重視していますが、不自然な翻訳は「怪しい詐欺サイト」だと思われてしまうケースも多くて。それこそ初期は翻訳だけでなく、サイトの中のボタン等も日本ではなじみが薄いデザインでしたしね。

さらに当時はバナーに中華フォントを使っていたんです。海外感が際立ってしまって、ますます怪しいと感じる人もいたと思います(苦笑)。

適切な表現や言葉は、消費者の皆さんに誤解を生まない・敬遠されないという点でも重要だと感じています。

現在のバナー。分かりやすさと興味を引くデザインで思わずクリックしてしまう。

ーバナーは盲点でした!他にも越境ECならではの課題はありましたか?

送料の設定も課題でしたね。
Pinkoiでは商品価格同様、送料も出品者に委ねているんです。そのため適当に設定してしまうと、実際の送料より多い・少ないなどの問題が発生してしまうケースもあって。

ー海外への発送は、意外と費用がかさみますしね。

それもあって出品者、私たちはデザイナーと呼んでいますが、彼・彼女らへの支援も積極的に行っています。具体的には、ポイントをまとめたハンドブックを配布したり、セミナーを開催したり。
送料や配送方法についても、セミナーなどで情報をシェアして売り手・買い手ともに満足できる仕組みを整えています。

「Pinkoi」の世界観を伝えるには、デザイナーの協力が不可欠」と話すお二人。

ファンに届ける“特別な1点”のために。世界観を守る独自の仕組み

ープラットフォームを用意するだけでなく、デザイナーさんへの支援も行っているとは驚きました。

その点は先のお話しにもあった、翻訳の部分にも関わっています。

Pinkoiでは商品ページに自動翻訳を採用しているのですが、自由に書いてしまうとうまく翻訳されないケースも多いんです。肝となる商品名や商品説明文では、違和感のある翻訳だと離脱の原因になりかねます。
そうしたトラブルを防ぐためにも、翻訳されやすい書き方などを例に挙げてデザイナーに紹介しています。

ー他にもデザイナーさんへアドバイスしていることはありますか?

たとえば商品の配送方法もそのひとつですね。

出品されているプロダクトは、紙や布製品もあれば、ガラスなどの割れ物までさまざま。商品の大きさや重さに合わせ、「この発送の仕方がベスト」と伝えたりもしています。
さらに商品ページに掲載する写真もアドバイスしています。

写真は購入者が特に注目する箇所ですよね。暗い印象だったり、詳細が見えにくかったりすると魅力が伝わりにくくなってしまいます。

そのため撮影の仕方や注意するポイントなどは、ハンドブックでも案内しています。

ー手厚いサポートを行っているんですね!その点も他のプラットフォームとは異なっているのではないでしょうか。

そうですね、審査制を取り入れているのも他とは異なっているかもしれません。
Pinkoiでは一定の基準を設けて審査し、クリアした方だけが出品できる流れとなっています。早く出品したい方にはネックかもしれませんが、デザインのクオリティやPinkoiの世界観を担保するには必要な手続きなんです。
私たちが一人ひとり審査するからこそ、「Pinkoiには面白いものが集まっている」とのご意見をいただける世界観をつくれているのかなと思っています。

また出品は、オリジナル商品か正規品の代理販売商品のみとしています。
これによって、まったく同じデザインの商品が違うデザイナーから出品されている、なんてことも回避できます。
Pinkoiならではの面白さとクオリティは、必ず担保すべきだと考えています。

ポストカードだけでも9,000件以上の出品。見ているだけでワクワクする。

ークオリティを重視しているのには、何か理由があるのでしょうか?

差別化の意味合いもありますが、当社のCEOであるPeter Yenは、デザインを大切にしているんです。そこから「世界にデザインを広めたい」と生まれた企業でもあるので、デザインとクオリティは最優先ですね。
当然私たちを含め、社員もデザインは好きですし、その点はとことん追求していきたいと思っています。

オンライン×オフラインの成功事例!Pinkoiで広がる販売の可能性

ー現在、多くの方がPinkoiで出品しています。成功事例や反響があった事例をおしえてください。

オンラインとオフライン、それぞれ成功事例があるので、まずはオンラインからお話しします。
最近反響があったのは、ヴィンテージのバッグなどを扱う日本のショップですね。そのショップは非常に売上が伸びているのですが、購入者は香港や台湾など海外の方が中心なんです。
売上が伸びている背景としては、保管状態のよさ。
新品ではないのですが、日本は物品の手入れがよく、状態が非常にいいものが多いらしいんです。

ーその点に目をつけた海外の方が多く購入されているんですね。

定期的に割引やプレゼント企画を行っている点も売上アップの追い風になったと思います。
購入者の多い国や主力商品、価格などを分析し、うまく当たるように施策を組んでいる点も大きいのかと。

いまは円安の追い風に加え、来日するより安く購入できるという背景もありそうです。

ーオフラインの方はいかがでしょうか?

これもまた日本のショップなんですが、「おひげのポン」というキャラクターのショップがありまして。

Pinkoiを通して、台湾でイラスト雑貨の販売を始めたんですが、台湾のオフラインイベントに何回も出店しています。デザイナーさんもファンサービスに熱心で、台湾での人気はものすごいですね。

日本でもファンが増えている「おひげのポン」は、Pinkoiから人気に!

ーデザイナーの方と直接交流できるのはうれしいですね!

その場でイラストを描いたり、購入者とお話ししたりするシーンも多いんです。当然キャラクター自体も人気なんですが、「デザイナーさんが来るから会いに行こう」とイベントに来て下さる方も多くて。

今年の1月には台湾全土のファミリーマートとコラボ。知名度もどんどん上がっていっています。

ー日本のほかにも活躍の場を作れるのは、Pinkoiならではだと思います。

私たちもデザイナーや生み出されたキャラクターが広まっていくのを見聞きするとうれしいです。デザインのECサイトとしての役割を果たせている喜びもありますね。

「怪しいかも」を「買いたい!」に変える!実物に触れる場づくり

ー先ほど「日本での知名度はまだまだ」とのお話しがありましたが、日本での拡大に向けての取り組みをお聞かせください。

現在はオフラインイベントにも力を入れています。
Pinkoiをより多くの人に知っていただくとともに、不安の払しょくにもつながればと考えていて。
実はPinkoiのサイト自体は知っているけれど、「何だか怪しいかも」と思っている方は一定数いらっしゃるんです。実際に「なかなか手が出ない」なんて声も耳にしています。

イベントでは実物を見て触って確かめていただき、そうした印象や不安を取り除く場を作っています。現在は東京や横浜でのイベントが多いですが、今後は他の地域でももっと積極的に開催したいと考えているところです。

2024年12月から各地で開催された「世界の文具店」。ワークショップもあり、文具好きにはたまらないイベントに!

ただ私たちが運営しているのは、ECサイト。オフラインイベントで終わらず、今後オンラインで購入してもらうにはどうしたらいいか。この点は社員全員、毎回相談しながら施策を考えています。

ーECサイトへの誘導施策は毎回違うのですか?

毎回変更を加えています。今回はこういうふうにやってみようとか、この間の施策を改善してやってみようとか。まだ正解がしっかりと見えていないので(苦笑)、チャレンジの途中ですが、その都度振り返りと検証を繰り返しながら、次につなげています。PDCAを意識しつつ、小さな改善を積み重ねることで、少しずつ前に進んでいる感覚です。

アジアのデザイナーがもっと推される世界へ!Pinkoiがめざす未来

ーユニークな越境ECのプラットフォームとして、めざすところはどこでしょうか?

日本を含むアジアのデザイナーが、世界で活躍できるようにする。この点は一番にめざしているところです。優れたデザインプロダクトを揃えている自信はあるので、それをどうやって世界中に広げていくか、は全社の大きなテーマですね。

ーデザインの魅力や強さを、社員の皆さんが大切に考えていらっしゃるところも素敵です。多くの人に選ばれ、愛されるプラットフォームならではの工夫があればおしえてください。

デザイナーを世界に広めていく。そのために何ができるか。
ECサイトは、オンラインの施策に目が行きがちですが、固定観念にとらわれずさまざまな手法を採用すべきだと考えています。デザイナーへのサポートもそうですし、オフラインイベントもそのひとつです。私たちは単なるサイトにとどまらず、デザインやデザイナーの可能性をもっと追求していけたらと考えています。

さらに自分の暮らす地域だけではなく、海外にも販売できる点は越境ECの魅力でありつよみです。その特長を最大限に生かすにはどうしたらいいのか、デザイナーへのアドバイスやサポートはこれからも続けていくつもりです。

ー消費者からも選ばれる、つまりはファンになってもらう工夫はありますか?

他社と違った切り口でのキャンペーンでしょうか。周りと同じキャンペーンだと目新しさや面白さが減ってしまうので、”Pinkoiならではの独自性をいかに出せるか?”は工夫しています。バレンタインデーには猫を中心にして「にゃレンタイン」のキャンペーンを開催しました。

いまは世界的に物価が上がっています。以前ほど気軽にショッピングができなくなったと感じている方も多いでしょう。だからこそお買い物の時間がより楽しくなるように、ページもキャンペーンも隅々まで気を配っていきます。

ーさまざまな取り組みや工夫をご紹介いただき、ありがとうございました!これからも楽しいアイテムをたくさん届けてくださいね!

取材を終えて

性別も国籍も関係なく仕事ができて楽しいと尹さん。同社はダイバーシティ&インクルージョンにも積極的に取り組んでいる。

最近読んだ本の中で印象に残ったワードがあります。
それは「エシカル消費」。
エシカル消費とは、地域の活性化や雇用などを含む、人や社会、環境に配慮した消費行動を指します。

自分を省みると、最近は「安さ」や「お得さ」を重視した買い物ばかりだと気づきました。自身を擁護するわけではありませんが、消費活動においては、それも決して間違いではないと思います。

しかし金額でない部分、たとえば作り手の気持ちや上質さに目を向けることも忘れてはいけないでしょう。一点ものを手に入れる喜び、長く使えるうれしさは格別です。ときには価格だけでなく、お気に入りを見つけるお買い物もいいのでは。

すっかり忘れていたショッピングの楽しさを、Pinkoiは思い出させてくれました。

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