月10万件超の投稿数!ファンとの絆を深めるコミュニケーション─「マイネ王」に見るファンマーケティング

Matsui

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こんにちは、&Fansライターのマツイです。

&Fansでは、熱狂を生む企業や個人のストーリー、それらの考えに紐づくマーケティング概念などを紹介しています。

皆さんは「MVNO」という言葉をご存じでしょうか?

MVNOとは通信設備を持つ携帯電話会社からネットワークを借り、データ通信や通話サービスを提供する事業者のこと。現在では2000社近くが参入し、通信業界では熾烈な競争が起こっています。

そんな混迷を極める通信業界で、独自の戦略で成長を続けているのが「mineo(マイネオ)」で知られる株式会社オプテージ。同社は独自の付加価値を提供し、顧客基盤の拡大に成功しています。

今回はこのオプテージ社の「ファン」を軸にしたブランド戦略と、顧客から愛されるブランドの作り方に迫ります。

目次

―本日はよろしくお願いします。まずは御社のサービス「mineo」のご紹介をお願いします。

「mineo」はMVNOによる通信と携帯電話のサービスを提供しています。契約回線数としては大体130数万回線。昨年で10周年を迎えました。国内MVNOの市場シェアとしては2024年9月末現在で2位です。

―月額料金の安さをアピールする企業が多い中、独自の路線でお客さまを獲得し、つながりをより強固にしている印象があります。

他社との大きな差別化要素になっているのは、コミュニティサイトの「マイネ王」です。

ユーザーと一緒にサービスを作り、他社にはない独自サービスを多数提供できている点が大きなポイントです。

価格だけではなく、ちょうどいいサービス・楽しいサービスをめざしている点も他社との差別化につながっていると思います。

 「mineo」https://mineo.jp/

「マイネ王」https://king.mineo.jp/ 

ポジティブな体験を提供する「マイネ王」の誕生と成長

―他社とは違った視点で、ユーザーをファンにする取り組みですね。マイネ王のこれまでの歩みをおしえてください。

当社のブランドステートメント「Fun with Fans!」に基づき、マイネ王は2015年に運営を開始しました。mineoの通信サービスの開始から、だいたい半年ほどでの開設です。当初はスタッフブログだけの簡単なサイトでした。

そこから掲示板やユーザー間でのコミュニケーションコンテンツなど、どんどん拡充させていき、いまのページに落ち着きました。

マイネ王の役割は大きく分けて3つあります。

最初に挙げられるのは「コミュニケーションの場」。mineoスタッフとユーザー、またはユーザー同士でコミュニケーションがとれるコンテンツが複数あります。発信に対し、メッセージや回答がもらえる双方向のやり取りで、非常に活発なコミュニティサイトになっています。

二つ目には「集客」。

mineoサイトからの流入ももちろんありますが、自然検索からの流入も全体の3~4割と数字を伸ばしています。最近はGoogle Discoverからの流入も増えてきていますね。

最後に挙げるのは「価値の提供」。

我々は「mineoを使っていると楽しい、面白い」と感じるユーザーを増やしたいんです。

そのひとつとして、当社らしさ・mineoブランドを体験する場としても機能しています。情緒的・社会的な価値を提供し、ユーザーから選ばれる事業者になれたらと考えています。

ブランドステートメント:Fun with Fans! ファンとともに楽しむ姿勢をくずさない。

―活発なやり取りを聞いて人が集まり、体験してその面白さを知る。面白いと感じた人がさらに他の人へ……とポジティブな循環が生まれていると思います。

現在、登録ユーザーは80万人を超え、もうすぐ90万人に迫ろうとしています。現在のMAU(月間アクティブユーザー)は20万人程度です。

ユーザー投稿数はコメントも含めて月に10万件ほどあり、企業コミュニティサイトとしては最大規模では、と自負しています。

 「天然パーマ@運営事務局」として記事やニュースも発信する冲中さん。鋭い分析にも注目!

ユーザーとの共創が生む、マイネ王の多彩なコンテンツ

ーアクティブユーザー数も投稿数も非常に多いですね!マイネ王ではどんなコンテンツを中心にしているのでしょうか?

主なコンテンツとしては「スタッフブログ」「アイデアファーム」「Q&A」「掲示板」の4つです。

スタッフブログでは月あたり20本ほどの記事をアップしています。主に記事を書くのは当社の社員。計画中の情報や改修のお知らせなど、内容はさまざまです。皆さんに楽しんでもらえるよう、たくさんのWebイベントやプレゼントキャンペーンも実施しています。記事にはコメント欄を設けてあり、なかにはユーザーからのリアルな意見も。

アイデアファームは、mineoの改善アイデアを投稿する場です。

「〇〇だったらうれしい」「この部分を直してほしい」など新サービスや改善提案を自由に投稿いただいています。投稿内容はすべて確認・検討し、すばらしいアイデアは実現する。それをずっと繰り返しています。

実は結構パワーを使う仕事なんですが、ユーザーにも当社にも非常にメリットがあります。mineoらしさをつくる重要なポイントなので、この一連の流れは大切にしています。

Q&Aと掲示板は、ユーザー間のコミュニケーションに利用いただいています。

他のユーザーとのやり取りやコメントを自由に楽しんでほしいと考えています。Q&Aはよくある“知恵袋”みたいなイメージですね。疑問を書き込むと、他のユーザーがおしえてくれます。詳しいユーザーがたくさん活動しているので、投稿されたら5分で的確な回答がもらえるほど。とても活発なQ&Aコンテンツになっています!

アイデアファームから生まれたサービス。ユーザーの声が反映されるのはうれしい!

ーユーザーとともにサービスを作り上げているわけですね。他にもユーザーやファンとの交流はありますか?

リアルでのイベントも展開しています。今後のmineoのサービスの方向性をお伝えする意見交換会もあれば、田植えや稲刈り、地域の清掃活動などのイベントもあります。「王国イベント」は普段mineoをご利用いただいている方々への感謝を伝えるために開催しています。

ほかにもさまざまなイベントを開催していて、年間400名程度のユーザーさんから直接お話を伺っていますね。我々の方向性や考えをお伝えし、意見をいただく集まりも多々あります。

ーmineoユーザーだからこその意見は貴重ですし、真似したい取り組みです。

mineoの契約で、さらに楽しい体験ができる工夫を盛り込んでいるのが特長だと思います。たとえばマイネ王内のコンテンツ「フリータンク」もそのひとつです。

これはパケットを通じた相互扶助。マイネ王のアカウントとmineoの契約情報を連携すると、自分のパケットをサイト上でやり取りできるんです。パケットに余裕があるときは、そのタンクに入れて必要な人に使ってもらう。逆に足りないときは、タンクからもらう。実にシンプルな仕組みです。

フリータンクのイメージ。特別な手続きをしなくても分け合える。

パケットをユーザー間で分け合うと、当然ですが我々には利益が出ません。

我々は利益を最優先にするつもりはなく、ユーザー間の助け合いの場を提供できればと考えています。災害発生時には、このフリータンクが「災害支援タンク」となり活躍します。被災地域の契約者を対象に、最大10GBまで引き出せるんです。

被災地域に心を寄せるユーザーが、困っている人のために自分のパケットをタンクに入れる。そんな支援もよく見かけます。

「価格だけではない価値」を提供する理由

ーブランドならではの、ファンへ向けたユニークな取り組みが興味を引きます。ファンマーケティングを意識したきっかけや背景をおしえてください。

総務省の資料によると、MVNO事業者は2000弱(2023年12月末現在)。それに対し日本のMVNO利用者は全体の15%ほど。この15%のユーザーを2000社で競争している形です。そうなると分かりやすく価格競争に偏っていき、あとは体力勝負になると予想されます。

出典:https://toyokeizai.net/articles/photo/689724?pn=4

大した利益を出せず、ひたすらに消耗していく。

それは避けるべきですし、「価格だけではない別の価値を提供しないといけない」と我々はサービス開始当初から考えていました。

そこで「別の価値」とは何か、を突き詰めていくうちにファンを一番に考える姿勢に至ったんです。料金は最安ではないけれど、面白いからmineoを契約している。そんな人を増やしたくてマイネ王が生まれました。

「mineoから発信する情報や企画により、お客様同士で盛り上がって楽しんでいただく。お客様同士で知りたいことや困っていることなどを情報交換して、助け合える場に。お客様の声を取り入れてより良いサービスを一緒に考えていくサイトにしたい」。

これは初期のスタッフブログに書かれている一節ですが、当時の想いは今も変わっていません。

マイネ王オープン時のメッセージ。

ー当初から差別化のための戦略として、ファンベースを重要視していたんですね。ファンベースマーケティングでは「効果測定が難しい」「KPI設定に悩む」との声もよく聞きます。御社ではどのように目標を設定していますか?

我々はコミュニティ視点での指標と事業視点での指標、この2つを軸に考えています。

コミュニティ視点の目標は「人が集まる環境を作る」。顧客との接点や接触回数の増加を重視しています。その指標として利用するのは、アクティブユーザー数や流入者数、投稿数です。さらに当社では、ユーザー間の相互コミュニケーション数にも注目しています。

人の集まり方、上がる声の多さはコミュニティの活性化に大きく影響するので、重視すべき箇所だと考えています。

ー事業視点ではいかがでしょうか。

一番の目標は収益性改善ですね。当社での分析の結果、コミュニティ等で活動量が増えると解約率が下がり、紹介者が増える傾向にあると判明しています。

当社では活動量からユーザーをコアファン・ライトファン・低関与層の3つに分け、それぞれへの働きかけを行っています。コアファンが増えるのはもちろんうれしいのですが、事業・収益視点で考えるとライトファンの数を増やすのが現実的です。

ー合理的な視点も忘れないところがポイントとなりそうですね。その他ファンに対して意識している点はありますか?

情報の開示です。これは行動指針である、「mineo way」にもまとめてあります。

シンプルに正直に。みんなに誠実であろう。この考えは、正しい情報を適切に公開するとも言えます。いくら「ユーザーとの共創」をうたっても、情報を隠したりごまかしたりすれば信頼は得られませんよね。

mineoの行動指針。3つのテーマはどれもファンを中心にしている。

mineoが描く、ファンとの次のステージ

ー5GやIoTの拡大により、通信業界はさらに競争が激化することが想像できます。そのなかでの今後のブランドの展望をお聞かせください。

この10年は、一般ユーザー向けの通信サービス事業を中心にしてきました。その中でファンが生まれ、さまざまな取り組みを経て信頼を築いてきたと思います。

今日まで育ててきた関係性は、今後も大切にしっかりと紡いでいきたいと考えています。通信は情報やデータのやり取りだけではないんですよね。そこには人とのつながりや気持ちも含まれていて。その点を忘れずに、ユーザーやファンの皆さんと歩んでいけたらうれしいですね。

さらに今後は培ってきたファンとの関係性を応用して、法人ユーザーにも力を入れていきたいところです。

ー法人のファンも増えたら、鬼に金棒でしょうね!ますますファンとのかかわり方に注目したくなりました。

mineo10周年イベントには2700名の方にご来場いただき、ファンの方々にも運営の協力をいただきました。たとえばフードの提供、余興でのパフォーマンス。さらには「特別な技術はないけれど、何か協力したい」とありがたいお申し出も。

助けていただいたファンの皆さんには、本当に感謝しています。

イベントからヒントを得て、それぞれの特技や個性を発揮できるイベントをオンラインでも開催できたらと考えています。趣味の合う人たちが集まって、その輪が広がっていくとより楽しくなると思うんです。マイネ王が人生を豊かにする場になれたら、こんなにうれしいことはありません。

10周年イベントでは、メッセージボードが登場。ファンのイラストとメッセージで埋め尽くされている。

ファンとの対話が企業の新たな価値創造に

ーファンマーケティングを始める企業も増えてきています。そうした企業にむけて、何かアドバイスはありますか?

まずは自社のファンに、実際に会って話を聞くのがベストだと思います。ですが「話を聞きたい」とあらたまってしまうと、本音を引き出しにくいかもしれません。

我々の場合は、各種サービスの考え方や進捗、自分の携わり方などを詳細に話しています。そうするとファンの方も興味をもってくださり、一般的なインタビューやヒアリングでは絶対に出てこない意見が飛び出すときも。

ファンからの率直な声は、社員のモチベーションの向上につながります。自身が担当した仕事に対し、お褒めの言葉や喜びの声をいただいたときには感動すら覚えます。

mineoにはファンの声が不可欠。うれしい言葉は素直に受け止めて、自身のモチベーションに!

ーファンの声には大きな価値がありますね。話を聞くのと同時に、情報を開示するのはぜひ取り入れたい手法です。

懇親会として開催するのもいいかもしれません。

当社でも意見交換会のあと、お酒を飲みながら一緒に話す場を設けているんですが、その時間が一番盛り上がるんです(笑)。もちろん意見交換会も盛り上がってはいますが、萎縮してしまう方もいらっしゃって。

懇親会だとフラットに話せますし、ラフな雰囲気がそうさせるのかもしれませんね。

2024年の第21回マイネ王オフ会の様子。どのテーブルも話に花が咲き、大盛り上がり!

ーこういう会社こそファンマーケティング・ファンベースが大事だ!と思う業種・業態があればおしえてください。

現代は業種・業態を問わず、安い・早いなどだけでは生き残りが難しい時代。それをふまえると、すべての企業がファンを意識して動くべきではと思います。

当社を例にすると、積極的なファン施策や姿勢が通信業界では目新しく、それで注目してもらえたのかなと考えています。そういう意味ではインフラ業界や硬いイメージの企業が取り組むと、意外性があるかもしれません!

ーファンへの想いや具体的な施策、取り組みまで詳しくありがとうございました!

取材を終えて

日々の暮らしの中で「もっとこうだったらいいのに」とか「自分には少し使いにくい」、そんな風に感じる瞬間はありませんか?それらは些末な出来事で、少し経ったら忘れてしまいがち。そしてまた使う際に思い出して、不満を抱く。

ではそれを企業へ伝えるか、と問われると「NO」と答える人が多いのではないでしょうか。

オプテージ社はユーザーの行動をよく理解しているからこそ、アイデアファームを生み出したのでしょう。

決しておごらず、ユーザーに寄り添ってくれるのは何よりもうれしい姿。

人を大切に考える王さまが見守る「王国」は、これからも多くの人に支持されるに違いありません。

マスコットキャラクターの「マイぴょん」と。地球のみんなにハッピーを届けるべく、今日も奔走中!

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