使う人とつくる人、そのあいだに生まれるデザイン。コクヨデザインアワードが問いつづける、“つくること”の意味

Kosada

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こんにちは、&Fans編集部のこさだです。

&Fansでは、熱狂を生むさまざまな企業や個人のストーリー、それらの考えに紐づくマーケティング概念などを紹介しています。

私たちの生活に“当たり前”のようにある文房具。

なかでも「キャンパスノート」は、学生時代の相棒だったという方も多いのではないでしょうか。

そんな“当たり前”をつくり続けてきたのが、創業120年を迎える総合文具・オフィス家具メーカー、コクヨ株式会社。使う人の視点に立ち、課題に共感しながら新しい価値をともに生み出す「共感共創」という考えを大切にされています。

その象徴ともいえるのが、2002年から続く「コクヨデザインアワード」。20年以上にわたって開催されているこの取り組みは、単なるアイデア募集にとどまらず、受賞者とコクヨの開発チームが力を合わせ、素材・技術・コストといった現実的な壁を越えながら商品化まで伴走する“共創の場”へと進化してきました。

今回は、このアワードが社会に与えてきた影響と、コクヨが大切にする哲学に迫ります。

目次

“良品廉価”から、“共感で生まれるデザイン”へ

ー「キャンパスノート」などで知らない人はいないほど有名なコクヨさんですが、まずは改めて事業や特徴について教えてください!

コクヨは創業120年を迎える総合文具・オフィス家具メーカーです。主力はファニチャー事業とステーショナリー事業で、「キャンパスノート」をはじめとするロングセラー商品を数多く展開しています。お客さまとの“共感”と“共創”を大切に、新しい体験価値を提供することを目指しています。文具や家具といった製品にとどまらず、空間デザインや体験づくりを通して、人と働き方・学び方の未来を豊かにしていくことにも取り組んでいます。

ー“共感”と“共創”、どちらもコクヨの姿勢を象徴する言葉ですが、この考え方はどのようにして生まれたのでしょうか。

創業者である黒田善太郎の「使う人の立場に立ったものづくり」という精神がすべての原点にあります。その想いを受け継ぎながら、お客さまの課題に共感し、一緒に新しい価値を生み出していく。それが、私たちが大切にしている『共感共創』の考え方です。そして、この理念を具体的に形にしたのが、独自の「ワクワク価値創出サイクル」。この仕組みを軸に、コクヨは“ワクワクする体験価値”を次々と生み出しています。

ーワクワク価値創出サイクル……?

3つの価値観から成り立っています。ひとつ目はお客さまの“もっとこうだったらいいのに”という想いに共感し、共につくる「共感共創」。ふたつ目は、モノではなく“体験”をデザインする「体験デザイン」。そして三つ目が、まずやってみる・失敗を恐れずに挑戦する「実験カルチャー」です。この3つを循環させることで、ワクワクするモノやコトを次々に生み出していきたいと考えています。

ーまさに、その考えを象徴するのが「コクヨデザインアワード」だと思うのですが、これはどんな取り組みなのでしょう?

「コクヨデザインアワード」は、才能あるデザイナーと共創するための国際プロダクトデザインコンペティションです。2002年にスタートして以来、毎年その時代を映し出すテーマを設定し、現在では国内外から約1,400点の作品が集まります。日常の道具に新たな価値を吹き込み、デザインの力で未来のワーク&ライフを豊かにすることを目指しています。

ー2002年が第1回とのことですが、はじまりが気になります。

2002年当時は、21世紀に入って間もない頃でニーズが多様化した時期でした。従来の「良品廉価」を超える価値を生み出したいという想いに加え、超高齢化社会という新しい課題も見え始めていました。そこで注目したのが「ユニバーサルデザイン」。年齢や能力、文化にかかわらず、誰もが使いやすい製品やサービスをデザインするという理念に共感し、初期は、その考えをテーマにしたアイデアコンペとしてスタートしました。

ーこれまでに話題になった作品には、どんなものがありますか?

代表的なのは、2002年の第1回「コクヨデザインアワード」で誕生した「カドケシ」ですね。「鉛筆で書いた文字を消す」という何気ない行為の中に潜む違和感に着目し、消しゴムという道具の本質を再定義したプロダクトです。2003年に商品化して以降、今でもロングセラーとして愛され続けています。

誰もが1度は目にしたことがある「カドケシ」もコクヨデザインアワードの産物!

ーあの「カドケシ」も、アワードから生まれたものだったんですね!

そうなんです。デザイナーの“気づき”に私たちが共感し、共創のかたちで商品化が実現しました。ちなみに、本アワードも20年以上続いていますが、これまでに商品化された受賞アイテムは、すでに20点を超えています。

ー例年多くの応募があると思いますが、審査で大切にしていることを教えてください。

若手デザイナー自身の体験から見える社会課題や“日常の困りごと”に対するアイデアを、どれだけ深く掘り下げ、磨き上げているかを重視しています。そうしたプロセスを経たアイデアこそが、人の心を動かし、共感やインスピレーションを生む力を持つと考えているからです。そして、受賞して終わりではなく、デザイナーと開発部門が連携して商品化を目指す。その“共創のプロセス”を何より大切にしています。

企業とデザイナーが響き合う、価値創造のサイクル

ー製品化まで見据えて取り組むのが「コクヨデザインアワード」の大きな特徴ですよね。この仕組みには、どのような意義があるのでしょうか?

2026年のテーマは「波紋 HAMON Design that Resonates

受賞後もデザイナーと企業が連携しながら製品化を目指していくことで、双方にとって良い循環が生まれていると感じています。受賞者にとっては、実際の開発現場で製品化のプロセスを体験できる貴重な成長の機会になりますし、企業にとっても新しい発想や刺激を取り入れることで組織の活性化につながる。そうした相互作用を通じて、持続的に価値を生み出す仕組みを築き、よりクリエイティブな企業へと変化していく。そんな意志をこの取り組みに込めています。

ー実際に共創型の開発を続けるなかで、社内にはどんな変化がありましたか?

受賞者との協働プロセスを通じて、開発担当やデザイナーはもちろん、他部署の社員にも刺激が広がっています。固定概念にとらわれない発想や挑戦する姿勢が少しずつ根付き、社内全体にクリエイティブマインドが醸成されてきました。今では、この取り組みが「メーカー」から「クリエイティブを生み出す企業」へと進化していくための原動力になっていると感じています。

ー20年以上続くアワードとして、社内外にさまざまな影響を与えてきたと思います。
これまでの「コクヨデザインアワード」が、ブランドのあり方やデザイナーとの関係にどんな変化をもたらしたと感じますか?

単なるコンペティションにとどまらない「共感共創」の場として、多面的な効果を生み出していると感じています。受賞作品の製品化や国内外での評価によって、コクヨのブランド価値は高まっていますし、学生を対象にした「NEW GENERATION賞」を通じて、次世代のデザイナーに挑戦の場を提供できていることも大きいですね。若い才能を育てることが、長期的なイノベーションの土台をつくると考えています。

“コクヨ”らしさが光る、NEW GENERATION賞トロフィーのデザイン

―実際に、ブランド価値の高まりを実感する場面もお伺いしたいです。

若手デザイナーの方々から「コクヨデザインアワードの受賞を経歴として記載したい」という問い合わせをいただいたときは、アワード自体がブランドとして信頼されていると実感しました。また、「NEW GENERATION賞」には人事・総務・営業・開発など、さまざまな部署の社員が関わっています。「コクヨは本気でデザインを大切にしている会社だ」と社員自身が実感するきっかけにもなっていて、社内外の両面で良い影響が生まれています。近年では海外からの応募も増えており、グローバルに認知が広がっているのも嬉しい変化ですね。

―海外からも応募があるのですね!

実際に海外のデザイナーが受賞されたこともあります。受賞作品を製品化したものの中には「グッドデザイン賞」や「iFデザイン賞」、そして「JIDAデザインミュージアムセレクション」に選ばれるなど、国内外で高く評価された事例もあります。こうした広がりが、アワードの意義をより大きなものにしていると感じます。

個と個が響き合う社会へ。コクヨが描く未来図

ー「コクヨデザインアワード」を今後どのように発展させていきたいとお考えですか?

「共感共創」という体験デザインを通じて、デザイナーに挑戦と学びの機会を提供し、その可能性をさらに広げたいと考えています。単なる賞の授与にとどまらず、時代を映す価値を発信するプロジェクトとして、社会全体のクリエイティビティを高める存在へと進化し続けたいですね。

またコクヨ株式会社としては現在、アジア・ASEAN市場への海外展開とM&Aによる成長投資を進めているところです。ほかにも“挑戦する”という企業文化を基盤に「自律協働社会」の実現を目指しています。

ー「自律協働社会」とは、どのような社会を指すのでしょうか?

自律した個人が互いを認め合い、協働することで新しい価値が生み出されていく社会のことです。多様な視点を持つ人々が、同調ではなく、信頼と親密さの中で意見を交わし、互いに良い影響を与えながら、創造性を高めていく。そうした社会が実現できれば、今の時代が抱えるさまざまな課題もきっと解決できると本気で信じています。

ー理想を掲げつつ、実際の事業や仕組みづくりにどう反映しているのかが気になります。

社会課題を解決し続ける「自律協働社会」を実現するためには、コクヨ自身が生み出す“社会価値”と“経済価値”の重なりをより広げていく必要があります。そのために、事業活動が社会価値の創出へどのようにつながるのかを可視化する“ロジックモデル”を設計し、検証を重ねながら社会へのインパクトを拡大していく取り組みを進めています。世の中の個性が輝く「自律協働社会」の実現に向けて、これからも挑戦を続けていきたいと思います。

取材を終えて

単なる商品提供にとどまらず、“顧客との共感・共創”を根底に据え、社会的な課題に対してデザインで応える姿勢が印象的でした。

「コクヨデザインアワード」は、まさに“共感から始まる共創”の場であり、次世代クリエイターを育成し、ブランドのあり方を変え、社会に新しい価値を生み出し続けています。

皆さんも、身近な“使いやすさ”の裏にある発想や仕組みを思い返してみてください。

暮らしに寄り添ったデザインが、未来を変えるヒントになるかもしれません。

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