“手放せないサービス”に変えていく秘訣。ビーキャップ流、並走型カスタマーサクセスの極意

Takanashi

Takanashi

「カスタマーサクセス=顧客サポート」だと思っていませんか?カスタマーサクセスは今、顧客との関係性を深め、熱狂的な“ファン”を生み出す手段として注目を集めています。

こんにちは、&Fans編集部の小鳥遊です。&Fansでは、熱狂を生むさまざまな企業や個人のストーリー、それらの考えに紐づくマーケティング概念などを紹介しています。

今回は、オフィス向け位置情報サービス「Beacapp Here(ビーキャップヒア)」を展開する、「株式会社ビーキャップ」の執行役員・山縣さんにお話を伺いました。

優れたサービスを提供し、顧客に長く使ってもらうことが成功の指標とされるSaaS業界。ところが「Beacapp Here」は“なくても成り立つ”(=短期解約のリスクがある)サービスだと山縣さんは語ります。だからこそ、ビーキャップはカスタマーサクセスに全力で向き合い、顧客との関係構築に力を注いでいます。

本記事では、ビーキャップ流のカスタマーサクセスに焦点を当て、ユーザーの枠を超えた熱狂的な“ファン”を生み出す秘訣について迫りました。

山縣さんプロフィール

目次

導入後が本番。「なくてもいい」をひっくり返すカスタマーサクセスの真価

ーまずは、株式会社ビーキャップについて教えてください。

当社はビーコンやセンサーを活用し、現場の身近な課題解決をサポートするソリューションカンパニーです。人やモノの動きを可視化するサービスを展開しており、なかでもオフィス向け位置情報サービス「Beacapp Here」が代表的なサービスとなっています。

ーオフィス向け位置情報サービス「Beacapp Here」とは、どのようなサービスなのでしょうか?

スマートフォンとビーコンを活用して、オフィスにいる社員の居場所や在席状況をリアルタイムに可視化できるクラウドサービスです。最近では、フリーアドレスやハイブリッドワークなどの働き方を導入する企業が増えており「誰がどこにいるのか分からない」という問題が顕在化しています。また、コロナ禍が落ち着いてオフィス回帰の動きも広まったことで「出社しても座席がない」「座席を探すのに時間がかかる」という状況が加速し、さらに問題は深刻化しています。そのような状況下で、スムーズな人探しを手助けし、円滑なコミュニケーションを支援するのが「Beacapp Here」です。

Beacapp Hereサービスページ:https://jp.beacapp-here.com/
Beacapp Hereサービスページ:https://jp.beacapp-here.com/

ー柔軟な働き方に対応できるサービスなのですね。おもに、どのような業界で導入されていますか?

工場や研究所など、遠隔の支店を持つ製造業での導入が多い傾向です。ただ、特定の業界に偏っているわけではありません。また、企業に限らず、病院での導入事例も多くあります。たとえば、広い院内で看護師が医師を探すために活用しているほか、看護師の稼働データも取得できるため、業務効率化を目的とした人員配置の検討にも役立てられています。

―なるほど。Beacapp Hereは業界問わず活用される、便利なサービスなんですね。

たしかにBeacapp Hereは、あると便利な一方で、“なくても業務が成り立つ”サービスでもあります。SaaS業界には、会計ソフトやチャットツールのように業務に不可欠なプロダクトが多く存在しますが、Beacapp Hereは業務遂行に必須のサービスとは言えません。また、導入していただいても、社内に魅力が浸透しないまま解約に至るケースもあります。だからこそ私たちは、導入して終わりではなく、導入後こそが本当のスタートだと捉え、導入企業の担当者さまと社内課題に向き合う“並走型のカスタマーサクセス”に注力しています。

あえて区切らない。部門を超えて築く信頼の形

ー導入企業の担当者さまと社内課題に向き合う“並走型のカスタマーサクセス”とのことですが、具体的にどのようなことに取り組んでいますか?

導入後の社内定着を支援するために、私たちが主体となって、社員の方々に向けた勉強会を開催しています。多くの場合「なぜ導入したのか」「どのようなシーンで活用できるのか」などの意図や使い方の社内共有は、導入企業の担当者さま自身が対応するケースがほとんどです。しかし、私たちは担当者さまを“パートナー”と捉え、導入後も社内での運用成功を目指して伴走する姿勢を大切にしています。勉強会を開催して社内浸透の手助けをする他、運用状況に応じては直接訪問させていただき、お客さまの状況に合わせてキャンペーンなどの社内浸透施策をご提案することもあります。

ー“なくても成り立つ”を超えつづける秘訣は、真摯なフォロー体制にあるのですね。やはり、カスタマーサクセスチームに人員を多く割いているからこそ、対応できているのでしょうか?

いえ、当社のカスタマーサクセスチームに在籍する社員は2名です。導入企業さま約200社を2名で対応している状況なので、決して多くの人員を割いているわけではありません。

ーえっ、現状2名で対応されているのですか?かなり大変だと思うのですが……

そうですね。だからこそ、チーム間の情報共有は大切にしています。お客さまごとに明確な担当者を決めるのではなく、2人で担当している意識を持ってお客さまの導入成功に向けたご支援を行うことで、「担当者が不在で対応できない」といった理由でお待たせすることなく、丁寧な対応ができています。また、新規契約後はカスタマーサクセスチームに完全に業務を引き継ぐ企業も多いと思いますが、当社はあえて区別しすぎず、営業メンバーも一緒にカスタマーサクセスに向けてお客さま対応に取り組んでいるのが特徴です。

営業メンバーも一緒にカスタマーサクセスに向けてお客さま対応に取り組んでいるのが特徴です。と語る山縣さん

SaaS企業のカスタマーサクセスと聞くと、社内で電話やメールによるサポートを行うイメージを持たれるかもしれません。しかし当社では、後々の問い合わせに具体的なイメージを持って対応してもらうために、導入後の初回訪問にはカスタマーサクセスチームに同行してもらっているんです。

ー部門の垣根を超えてカスタマーサクセスに取り組んでいるのが、ビーキャップの特徴なんですね。その結果、見えてきたことはありますか?

カスタマーサクセスに注力しているのは、もちろんお客さまに満足いただくことが最大の目的ですが、その過程でお客さまとの関係性が深まり、結果として当社も大きなメリットを得られていると感じています。たとえば、Beacapp Hereを愛用するお客さまが、他の拠点にも紹介してくださり、横展開が生まれるケースがあります。また、長いお付き合いがあると「こんな機能があると便利」という貴重なご意見・ご要望をいただくことも少なくありません。そのような声をしっかり拾い上げてサービスに反映することで、お客さま満足度の向上につながっている実感があります。

ファンの声を開発につなぐ。年に一度の「交流会」

ー顧客との関係性を磨くために取り組んでいる“ビーキャップらしい”カスタマーサクセスはありますか?

年に1回開催している「ユーザー会」という名のオフライン型交流会は、当社らしいカスタマーサクセスの1つです。今年も7月末に実施して、計23社の導入企業さまにご参加いただけました。

ー面白い取り組みですね!ユーザー会ではどのようなことを実施しているのですか?

導入企業の担当者さまとお酒を交わしながら会話を楽しむ会ですが、せっかく多くの方に集まってもらえる機会ですので、Beacapp Hereに期待する機能についてのアンケートも行っています。日頃からご要望の多い機能をいくつかピックアップし、その中から最も欲しいと思う機能に投票していただき、票数が一番多かった機能は、翌年のユーザー会までに必ず開発しています。

ーつまり、導入企業さまの声を毎年1つ以上、確実にサービスに反映させているということですね!「自分の声がサービスに反映されるかもしれない」という期待が持てるから、23社もの参加につながったのかもしれませんね。

実は、前回開催したときの参加社数は10社ほどで、23社という大規模で実施するのは今回が初めてです。本来であれば導入企業の皆さまをご招待したいのですが、会場規模の問題もあり、ご招待については私たちが個別にお声掛けさせていただいています。お声掛けできている企業さまも限られているなかで、これだけ多くの企業さまに参加いただけたことをとても嬉しく思っています。お忙しいなか時間を作って参加してくださるということは、弊社のファンになっていただけている証拠であり、カスタマーサクセスに真摯に取り組んできた成果と言えるのではないでしょうか。

お忙しいなか時間を作って参加してくださるということは、弊社のファンになっていただけている証拠と語る山縣さん

繰り返しになりますが、Beacapp Hereはなくても成り立つサービスなので、お客さまにとって使いやすいものを提供していかないと、社内浸透は難しいと思います。だからこそ、ユーザー会のようなオフライン型の交流会を設けて、お客さまとの対話から新たな気づきを得ること、そしてその気づきを“リアルな声”としてサービスに反映させていく努力が必要なのです。

並走型カスタマーサクセスの強化でつくる未来

ーお客さまのリアルな声を拾い上げ、共創する姿勢を大切にされているんですね。コミュニケーション面で意識していることはありますか?

正直に納得させることです。訪問の際は、社員の皆さまの実際の利用状況から「人やモノを探す時間をどれだけ削減できたのか」を数値化した資料をお持ちしています。導入効果を数字で実感できると、サービスの価値をより納得していただけるはずです。また、導入前のお打ち合わせ段階で、担当者さまから「Beacapp Hereを使ってこんな課題を解決したい」という声をいただいた際、可能な範囲での対応や代替案をご提案した上で、導入企業さまが望むゴールを実現できないと感じた部分は正直に伝えています。契約をとるために誤魔化したとしても、長い目で見たときにプラスに働きません。信頼関係を築くためにも、納得感を持ってもらえるコミュニケーションは大切にしています。

ー人間関係と同じように、ビジネスでも“ファン”をつくるには、信頼されることが大切なのかもしれませんね。

そうですね。特に当社はSaaS企業なので、一時的に売上を立てることよりも、長く利用いただくことの方がメリットが大きいです。そのためには、良いところも悪いところも包み隠さずお伝えして、導入企業さまとの信頼関係を築くことが大切だと感じています。

ーファンとの関係性を深めていていくために、今後挑戦してみたいことはありますか?

並走型のカスタマーサクセスをさらに注力していきたいです。パートナーとして社内浸透に深く関わることで、導入企業さまが自然と当社のファンになってくださっている実感があります。今後、その動きを強化することで「おすすめしたい会社・サービス」として、他の事業部やグループ会社への紹介の輪が広がっていくことを期待しています。

ーありがとうございます!それでは最後に、カスタマーサクセスに注力しようと思っている企業にアドバイスがあればお願いします。

「営業だから」「CSだから」と部門間の壁をつくらずに、一緒に顧客サポートのために並走することが大切だと思います。当社の代表も、日頃から「ワンチーム」と申していますが、導入企業さまに満足してもらうためにも、ファンづくりの観点においても、チーム一丸で取り組むことをぜひ意識してほしいです。

取材を終えて

一定期間の利用を前提とする、SaaS業界のサービス。「解約」されたか「継続」されているかによって、顧客満足度を測るのが一般的だと思います。そのなかで、常々おっしゃっていた「Beacapp Hereは、なくても成り立つサービス」という特性は、より顧客満足度を測りづらい条件になっているはずです。

そのなかで、フォロー体制を工夫したり、交流会のようなリアルイベントを設けることで、顧客との接点をつくる株式会社ビーキャップ。「なくても成り立つ」を超えてつながった顧客との関係性を大事にするために、部門の垣根をこえてカスタマーサクセスに取り組んでいるのが印象的でした。

自社だけの効率性を求めるのであれば、部門ごとの分業が最適かもしれません。しかし、ユーザーとの関係を深め、プロダクトが長く愛され続けるためには、「ワンチーム」で向き合うことが喜ばれるでしょう。形のないサービスだからこそ人の力で信頼を獲得する。それが、SaaS業界が取り入れるべきカスタマーサクセスのあり方なのかもしれません。

▼「顧客との信頼関係を深めて、サービスを共創したい!」そんな方はこちらの記事もおすすめです。
ピーティックスが生み出すつながりと新しい世界の扉─ファンと共に創る、さらなる発展と可能性

取材・執筆:小鳥遊まゆか
編集:神谷周作

この記事をシェア

おすすめ記事

Recommend