ニジュウロクドが提案するこれからの商品宣伝。ショートドラマxストーリーの力

Shibashi

Shibashi

こんにちは、&Fansライターの椎橋です。&Fansでは、熱狂を生む企業や個人のストーリー、それらの考えに紐づくマーケティング概念などを紹介しています。

昨今、多くの企業が広告活動やエンターテインメント事業として取り入れている縦型ショートドラマ。

めまぐるしい情報が常にひしめく市場で、ショートドラマはどのような力を発揮するのか。ミニアプリ型ショートドラマ「SNACKドラマ」を発信する中で、コミュニティコマースをどのように展開させているのか。「株式会社26℃(ニジュウロクド)」の宮澤一博さんに詳しくお話を伺いました。

目次

ショートドラマはPRを行うにはもってこい。SNS時代における、これからのコンテンツ

―まず、「ニジュウロクド」はどのような事業を行っているかお教えください。

ショートドラマ、タレント育成、デジタルマーケティングの3つ領域で「良質なコンテンツ」と「緻密なデジタルマーケティングを」掛け合わせた事業を展開しています。

―ショートドラマでは、日本初のLINEミニアプリ型ショートドラマ「SNACKドラマ」を運営されていますが、これはどのようなサービスなのでしょうか?

「SNACKドラマ」は、1話90秒のオリジナルショートドラマを制作・配信するサービスです。 視聴専用アプリのダウンロードは不要で、LINEミニアプリで配信しているので、ユーザーは手軽にスキマ時間にショートドラマを楽しめます。

ニジュウロクド(26°C):https://www.26c.jp

―90秒という短尺にこだわった理由はあるのでしょうか?

私たちのターゲットは、モバイル端末でコンテンツを楽しむ、若い世代の方々です。彼ら彼女らは情報があふれた世の中で、非常に忙しい毎日を送っています。多忙な日々のちょっとした空き時間に、気軽に楽しめるコンテンツが求められているのではないかと考え、ショートドラマ事業をはじめました。    

―ショートドラマで収益化をする場合、課金(ユーザーからの直接的な支払い)や企業向けPRなど、いくつか手段があると思いますが、現状はどのような収益モデルがメインなのでしょうか。

今は企業PRがメインです。ショートドラマはSNS上で再生数を大きく伸ばせる優秀なコンテンツです。ニジュウロクドは、ショートドラマ内に企業の商品やブランドを自然に組み込みつつ視聴者に興味を持ってもらい、購買やショッピングサイト訪問につなげる作品をつくっています。    

中国と日本、両国の文化を横断するからこそ実現できる「ローカライズ」

―昨今注目されているショートドラマ市場は、競争がかなり激しいのではないでしょうか。

競合他社もたくさんいますが、ニジュウロクドならではの取り組みを行って差別化を図っています。

ショートドラマは元々中国が発祥で、現在も市場がどんどん伸び続けています。私は幼少期から幾度も中国を訪問していましたので、言語面、文化面においてどの企業よりも中国市場のことを熟知している自負があります。    

だから、中国で成長している事例を瞬発的に日本に取り入れる能力がニジュウロクドにはあるんです。

激しい抗争を繰り広げるエンタメ業界では、スピードがなによりも大切です。精神面、組織体制、共にスピーディーに事業を進めることができるのが、私たちの持ち味だと思っています。

―中国のショートドラマって展開や情緒の起伏が激しい印象です。日本人にもそのような表現ってウケるのでしょうか。

中国のショートドラマは、ストーリー演出もかなり過激でインパクトがある要素が多いですよね。だから中国で評価があったものを、ただ日本に取り入れても良い結果にはつながりません。価値観や文化の違いがあるので、作品に共感してもらえないという問題が生じます。

このような事態を招かないためには、中国の作品を、日本で受け入れられるような演出に落とし込む「ローカライズ」が求められます。

私は中国も日本の文化も両方触れてきましたから、中国で成功した事例を再構築することがスムーズに行えるんです。    

ファンと役者、双方向のやりとりでエンゲージメントを高める

―ニジュウロクドは、ショートドラマの視聴者をファン化し、ブランドとの共創を生む「コミュニティコマース」への取り組みを行っていく予定だと伺っています。

ショートドラマを見た視聴者にファンになっていただき、その上で商品購買にもつなげられるような取り組みを行うつもりです。

―それはどのようなプロセスで行われていくのでしょう。

流れとしては、まずショートドラマを配信し、興味を持ってくれた方々をLINE公式アカウントやオープンチャットへ誘導します。

ドラマに登場する役者が、実際に視聴者とやりとりできる場を用意して、取り扱った商品の良さを本音で話してもらいながら、ファンと深いコミュニケーションを図ってもらいます。アイドルの握手会やファンクラブのような感覚をSNS上で再現するイメージですね。

―推しと直接交流ができるなんて、ファンにはたまらないですね!

こうした双方向のやり取りがあると、単なる受け手ではなく「推しを応援したい」「もっと関わりたい」という感じてくれるファンが増えてくれます。その中で自然と、その役者やドラマ内で紹介された商品を「自分も試してみたい」と思ってもらいやすくなるんです。

―DMやコメントではなくオープンチャットを採用している理由は何でしょうか。

従来のDMやコメントでのやり取りは、どうしてもファンからの一方通行になりがちでした。しかしオープンチャットでは双方向のコミュニケーションを取ることが可能になります。この双方向のコミュニケーションこそが、ファンとのエンゲージメントを高める上で非常に重要になってくると考えています。

屋内, 人, テーブル, フロント が含まれている画像

AI によって生成されたコンテンツは間違っている可能性があります。

―双方向のコミュニケーションが重要だと思った理由を詳しく伺いたいです。

美容系のメディアを運営していた際の成功体験が基になっています。当時、送られてきたDMにひとつひとつ返信していていた時期があったのですが、購入の問い合わせや、実際に購入してもらうといったコンバージョンレートが約5倍になったんです。密なコミュニケーションがあることで、ファンの方の購買意欲にも良い影響が出るんですよね。

―購買を促進する上でさらに力を入れようと思っていることはありますか。

ショートドラマの方向性を調整していくつもりです。エンタメというコンテンツとしてだけでなく、購買意欲を高めてもらえるような“商品紹介動画”としての立ち位置を確立したいと考えています。

今はまだ、ショートドラマを見て「これ欲しい!」と思う体験が少ないと思っています。

今後は、ショートドラマを観たユーザーが、自然と購買意欲を持つようなコンテンツづくりを目指していきます。

―実際にショートドラマから購買に繋がったという事例はありますか?

2024年の11月に、美容ブランドに向けて制作したオリジナルドラマがあったのですが、TikTokのオーガニック投稿で再生数からリンクのクリック率が0.2%を超え、非常に高い数字を記録しました。1500万回再生されたので、かなり効果がありましたね。    

ユーザーと向き合う時間が、より良いコンテンツの土台になる

―購買意欲を刺激させるコンテンツの企画はどのように行っているのでしょうか?

商品が決まったら、まずはN1分析を行います。大まかなターゲット層ではなく、ひとりひとりの人物像を具体的に設定し、その対象となる方に対して1時間以上のインタビューを行います。

―ひとりに対して1時間以上のインタビューですか!

インタビューを通して、商品を使ったことがある人、もしくは実際に購入した人の気持ちや感想を深掘りしていきます。その中で、ユーザーが需要を感じたシーンなどからヒントを見つけ、ストーリーの切り口を見出していきます。    

―刑事の聞き込みのような忍耐力の必要な作業ですね。嘘偽りなく、実体験に基づいたストーリーづくりをしているんですね。

「本当に良いもの」を提供したいので、そこには力を入れてますね。

空想上のセールスや押し売りではなく、必要としているものを求めている方々に向けたアプローチをしています。

―セールスを意識しているとショートドラマの構成部分も変わってきそうですね。

私たちにはマーケティングというバックボーンがあるので、ユーザーを購買につなげるための作品づくりを行っています。

最初の2秒でユーザーを引きつけ、30秒まではストーリーとしての面白さを描きます。そこからナチュラルに商品の紹介をする訴求部分を1分間つくり、最後にECサイトに誘導する、といった構成になります。

―ニジュウロクドのコンテンツをファンに拡散してもらうための工夫はありますか。

近いうちに、口コミの拡散を後押しする機能をリリースする予定です。

たとえば、視聴者がドラマの続きを見たいとき、友だちや知人にニジュウロクドのドラマの情報を転送すると、続きを視聴できるチケットがもらえるような仕組みを考えています。

9000万人のユーザーがいるLINEのプラットフォームで展開できるので、拡散力は非常に高いと思っています。

―タレント事業も展開されていますが、所属タレントをコンテンツに出演してもらうことで、何か効果はありましたか?

自社のタレントですと撮影日や演出の柔軟な調整もできますし、いろいろなキャラクターを演じてもらうこともできます。「今度はこういう役なんだ」という感想が生まれ、ファンの興味も引きやすいですね。    

―自社の役者を使わず、他事務所の役者をキャスティングすることもあるのでしょうか。

世間に広く知られている方を起用することもあります。確かに、認知度が高い分、多くの方の目に留まりやすいとは思います。

ただ、私たちは作品自体の「面白さ」こそが最も大切だと考えているので、キャスティングに多くの時間をかけるよりも、脚本や撮影など作品づくりに注力したいという思いがあります。

―なるほど、つまりそれが自社でタレントを育成する理由なのでしょうか?

他にも、認知から購入、そしてリピートという顧客行動全体をカバーしたいという要因もあります。

ショートドラマに出演したタレントが、ライブコマースで同じ商品を紹介し、さらにLINEのオープンチャットでファンと交流する流れをつくることができれば、商品購入率をさらに高めることができます。

他事務所にキャストをお願いすると手間もコストもかかりますが、自社タレントを活用すれば、商品紹介や交流といった一連の動きを1人のキャストで実現することが可能になるんです。この取り組みは購買意欲を向上させ、ファンのエンゲージメントも高められます。

―最新のシステムを使いながらも、ファンと役者といった、人と人との気持ちの繋がりを重視しているんですね。

好きなタレントとやりとりができるのはファンにとって嬉しいはずですからね。ファンとの交流密度を高めることは意識しています。

―今後のコミュニティコマースの市場動向について、どのように予測していますか?

ショートドラマというコンテンツは、まだまだ成長すると思っています。今後、さらに普及が進み、ジャンルも広がっていくでしょう。

私の中で少し懸念点があるとすれば、収益化の部分です。

十分な再生数があるにも関わらず、マネタイズに結びつかないという点は、業界全体が抱えている問題だと思います。

―ショートドラマが広告事業として成功している中国との大きな違いはどこにあるのでしょう。

日本ではSNSで集客をし、自社のプラットフォームに誘導して購買行動を起こすという形がオーソドックスなのですが、この導線の中でユーザーが離脱してしまうケースが多いように感じています。

中国の場合は、中国版TikTok「抖音(ドウイン)」の中に、複数のショップが出品できるECモール機能があるので、購買までスムーズに行えます。このわずかな差が、マネタイズにおいて大きな違いを生んでいるように感じています。

―日本で取り入れるためには業界規模の大きな改革が必要になってきそうですね。

「SNS内で完結する購買体験」が実現すれば、ショートドラマ業界はいっそう盛り上がっていくはずです。ただ、中国で見られるような、やや過激な売り方は日本の文化には合わないかもしれませんので、その点はローカライズが必要になってくると思います。    

「26℃(ニジュウロクド)」という社名に込めた想い。ファンと企業をつなぐ、新しい体験の温度感

―最後に、ニジュウロクドが抱く今後の展望についてお教えください。

「26℃」は、人が最も快適に過ごせるといわれている温度です。ニジュウロクドという社名の中には「日常に心地よいコンテンツを。」という理念を掲げています。私たちは「素敵な商品」と出会えるきっかけとなるツールつくるため日々邁進しています。

ECサイトでよく見かけるような、誇大広告で売り込みをするようなやり方はしません。本質的に価値があるものを正しく、かつ面白く伝えていきたいんです。

実際に使った人が「これすごく良い」と、その価値を理解してくれたら、ポジティブな循環が生まれ、売り上げに自然とつながっていきます。

誰もが心地よい環境にいながら、ECサイトやコミュニティコマースを活用してもらえる未来をつくっていきたいです。

屋内, 人, ノートパソコン, 座る が含まれている画像

AI によって生成されたコンテンツは間違っている可能性があります。

―新しいショートドラマの形とコミュニティコマースの可能性について、とても興味深いお話をありがとうございました!

取材を終えて

日常生活の中でよく見かけるようになった縦型ショートドラマ。

何気なく見ているとついつい続きが気になって、思わず夢中になることもしばしば。

そんなショートドラマの特色を活かし、プロモーションとして商品購買につなげるといった知見は目からうろこの発想でした。

取材中、常に私たちの瞳を見つめ、懇切丁寧にお話をしてくださる宮澤さんのおもてなしは、まさしく26℃の心地よい空間でした。

情報が飽和して、なにを買えば良いのか迷走している私たちの声に寄り添い、本当に良いものを届けてくれる。そんな優しさとユーモアにあふれた宮澤さんの取り組みに今後も期待していきたいと思います。

取材・執筆:椎橋萌美

編集:神谷周作

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